令和4年7月18日(月)
今回は不動岡高校吹奏楽部D部門で取り上げる自由曲
「海の男たちの歌」 ロバート・ウィリアムズ・スミス 作曲
についての解説です。
これは、D部門に参加する生徒に向けた曲目解説です。
原題は「Songs of Sailor and Sea」ですので、「男たち」は「船乗り」の方が適当ですかね。
もう申し込みには「男たち」にしてしまいましたが・・・。
この作品は 1 Sea Chanty、2 Whale Song、3 Racing the Yankee Clipper の3つの場面で構成されています。
Sea Chanty(海の歌)
これは船乗りの歌う労働歌が元に作曲したそうです。
帆を上げたり、舵を取ったり、全てが人力だった時代です。
ちなみに帆船を動かす船員は、とにかく荒くれ者が多かったです。
それは歴史的な背景があります。
大航海時代
1492年 コロンブスによる新大陸到達が実現しました。
これがいわゆる「コロンブス・ショック」として、ポルトガルに伝わります。
後発のスペインにインド航路開拓で後れを取った!とより積極的なアフリカ周りのインド航路開拓を進めました。
しかしながら、この頃の船旅は非常に危険で命を捨てに行くようなものでした。
1519年に西回りのインド航路開拓の度に旅立ったマゼランは、1522年にスペインに戻りました。
出発した船団は5隻、約250名の陣容でした。
それが、帰国できたのは
18人
でした。
当然、乗組員の確保は困難であり、力自慢の「受刑者」が船乗りの対象として利用されたそうです。
「死刑囚」も、生きて帰れば無罪放免!
ちょっと荒くれ者のレベルが違います。
「海賊」が大活躍する世界のイメージはこのような背景からくるのでしょう。活躍する世界のイメージはこのような背景からくるのでしょう。(ワンピースの海軍とか)
実際、英国ではエリザベス女王がライバルのスペインを攻撃するために、海賊であった「キャプテン・ドレーク」にサーの称号を与えて、スペイン船(新大陸の銀を満載)を襲わせています。
王様の軍隊(正規軍)が元というか現役の海賊だったりしたのです。
ということで、筋骨隆々の荒くれ者が「帆を上げる」様子を想像して演奏してもらいたいです。
Whale Song(くじらの歌)
海を旅すると、様々な生き物を見られます。
私は一度だけ小笠原諸島へ行きましたが、そこでは「ホエールウォッチング」が有名でした。
残念ながら2月(出産)の時期ではなく、私は見る事が出来ませんでした。
またいつか行きたいです。(片道28時間の船旅で、1隻しかないので小笠原諸島へ行くには1週間かかるのです・・・)
さて、このクジラは「ザトウクジラ」だと思われます。(小笠原諸島と同じ)
体長は13メートルにもなりますが、最大級だと18メートルです。
静かな海にクジラ、イルカなどが船の周囲で潮を吹いたり、並走したりする様子でしょう。
イメージは「ラッセン」の夜にジャンプするクジラの絵でしょうか。
Racing the Yankee Clipper
「ヤンキー」=アメリカの
「クリッパー」=高速帆船の事
ちなみに「クリッパー」は「はさみ」の事ですが、「時間をはさみのように切り取る」という意味から来ているそうです。
さて、「レーシング」とありますが、このアメリカの高速帆船がなぜ競争をするのでしょうか。
時代は19世紀。
産業革命によって蒸気船が登場します。
米国フルトンがハドソン川にクラーモント号を走らせたのが1807年の事。
ちなみに速力は約4ノット(約6km/h)です・・・。
これでも、「時刻表」が登場するという画期的な出来事でした。
しかしこれでは外洋、しかも「時間との勝負」には勝てません。
このスピードでアジアの商品を仕入れていたら、商品はもちろん、船員も耐えられません・・・。
そこで、19世紀は帆船の時代だったのです。
しかも、改良に改良を重ねた高速帆船は何と約14ノット(約26km/h)まで高速化しました。
それまでアジアまで5万6千kmの旅が往復1年を要していたのですが、「競争」が激化してとうとう
往復6か月!
まで短縮するのです。
まさに、この「競争」を示しています。
ちなみに米国の最初の高速帆船は「レインボー号」でした。
何を運んだかというと、北米で生産される「綿花」とアジア(インド・中国)の「お茶」です。
そこで「Tea Clipper」(お茶高速帆船)や「Wool Clipper」(綿花高速帆船)と呼ばれました。
ちなみに、現在でもイギリスに高速帆船が保存されています。
さらに、最後まで商用運転されていた「パミール号」(独)は
1939年
でした。
1939年9月にドイツ軍がポーランド侵攻して第2次世界大戦が勃発しました。
米国海軍軍楽隊
この作品の委嘱先は、アメリカの海軍軍楽隊です。
ちなみに、アメリカの軍楽隊は陸軍、海軍、空軍、そして海兵隊にあります。
スミス氏は「海の歌」と称して、歴史にちなんだ作品を作り上げたのです。
久しぶりに演奏することにしましたが、この作品は「名曲」だなと再認識しました。
マーチングコンテストまで演奏し続けることになりますが、作品の内容まで意識して演奏してください。
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